入棺体験で、生と死はそれほどかけ離れているものではなく、つながっているものだと感じるようになりました。
新しいことと古いことも正反対のようでいて、新しいものは誕生した瞬間から古くなっていきます。
今年のディラン先生の誕生日(5月22日)にNHKで『佐野元春×浦沢直樹 〜僕らの“ボブ・ディラン”を探して〜』が放映されました。
「ストーリー作りに行き詰ると、ディランならどうするかと考える」という浦沢氏は根っからのディラン信奉者。
番組ではディランファンの聖地、ウッドストックのビッグピンクを訪問。現在は若い夫婦が所有しているそうですが、特別に中に入れてもらっていました。
1966年、ウッドストックで休暇を過ごしていたディラン先生がバイク事故を起こし、ツアーはすべてキャンセル。そのまま引きこもってしまいましたが、ザ・バンドとともにビッグ・ピンクと呼ばれるピンクの壁の大きな家の地下室でセッションを続けていたのです。
ザ・バンドは当時ザ・ホークスという名前だったのですが、ウッドストックの人たちが「ディランと一緒にいる、あのバンド」と呼ぶのでそのまま「ザ・バンド」と名乗るようになりました。
『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』のジャケット裏側。ビッグ・ピンクの写真が載っています。
ビッグピンクの中で佐野元春と浦沢直樹はザ・バンドの『Tears of rage』という曲について語ります。
イントロが風変りな音で「いつ聴いても変」「だから永遠に新しい」。
ボブ・ディラン自身、「変な声」で「変な曲」を歌う人です。売れるかどうかより、自分が歌いたいかどうかを優先し、フォークからロックへ転身しただけに止まらず、カントリーやゴスペルにまで無節操に手を広げます。
ふつう自分が好きなミュージシャンは身近な人にも聴かせて好きになってもらいたいと願うものですが、私はめったなことではディラン先生を人に勧めません。
「変だから古くならない」という流れで思い出したのが、小津安二郎の映画『宗方姉妹』。原作は大仏次郎です。
保守的な姉に対して進歩的な妹が「お姉さんは古い」と突っかかると、姉はこんなことを言います。「私は古くならないことが新しいことだと思う。本当に新しいことはいつまでたっても古くならない」
姉妹を演じるのは田中絹代と高峰秀子。1950年の映画で「古い、新しい」が論じられているのを2014年に観るのは不思議な感じですが、人間が考えることは時代が変わってもそう変わらないものだと思ったりします。
小津映画が世界から高い評価を受け、いつまでも古くならないのと同じように、ボブ・ディランやザ・バンドの曲も聴き継がれていきます。
音楽や映画は好みがありますから、自分にとって「いつまでも古くならない」ものをどれだけ見つけられるかが、人生の豊かさを左右します。
私にとってはディラン先生とザ・バンド、アキ・カウリスマキと小津安二郎と巡り会えたことが、これ以上ないほどの幸運でした。