翡翠輝子の招福日記

本業は女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)。副業で外国人に日本語を教えています。フィンランドが大好き。

『赤毛のアン』を原書で読む

NHKの朝ドラ『花子とアン』を観ているうちに、モンゴメリのアンシリーズを再読したくなりました。

少女小説なんだから原文で読みたいところなんですが、けっこうむずかしい。ストーリーを追う前に、わからない単語が次々と出てきて投げ出したくなります。

『ストーリー・ガール』訳者の木村由利子氏のあとがきから。

彼女の文章はいかにも女性らしい、修飾語の洪水です。中心の言葉にたどりつくまでに息切れしそうな、幾重もの修飾の垣根。彼女の思いがあふれにあふれて、なかなか前に進ませてくれません。たそがれの空は、「紫と金色と銀ねずみがかった緑色で、楡の上にはバラ色の雲がやさしくからみあって」いるのですし、雨の後の西風からは「バルサム樅の樹脂、はっかの香り、羊歯の野性的な、森のにおい、陽光の中にのびる羊歯の芳香、加えてはるかな丘の牧草地の甘美ないぶきがしたた」ってきます。

まさにそうだ、と膝を打ちました。
村岡花子訳なら、修飾語の洪水は異国情緒をかきたててくれますが、原書だと我が身の英語力の欠乏を思い知らされるわけです。
かといって村岡花子訳では、表現が古いところもあり、原文ではどう書かれているのかが知りたくなります。

そこで村岡訳、原書と交互に読み進めてみました。
日本語でストーリーの流れが頭に入っているので、原書でわからない単語があっても読み飛ばしていきます。

原書でしっかり読むべきは、登場人物の会話。さすがのモンゴメリも、会話部分は装飾語を控えています。

マシューとマリラが孤児を引き取ると聞き、隣人のレイチェル・リンド夫人は、見ず知らずの子を家の中に入れると、夜中に放火されたり、井戸に毒薬を入れられるかもしれないなど、不吉なことばかり言います。
マリラの返答はこうです。

As for the risk, there's risks in pretty near everything a body does in this world. There's risks in people's having children of their own if it comes to that―they don't always turn out well.
危険といえば、この世で、人間のすることには何でもかんでも危険はついてまわるからね。そんなことを言ってた日にゃ、自分のこどもだって安心して産めなくなりますよ―かならずしも、どの子もうまくいくとはきまっていないからね。(村岡訳・以下同)

そして、マリラとアンの会話を追っていくうちに、マリラが徐々にアンを愛おしいと感じていくのがわかります。

マリラの大切にしている紫水晶(amethyst)のブローチが紛失し、マリラはアンがなくしたと誤解します。「本当のことを言わないかぎり、ピクニックには行かせない」とマリラ。アンは「コルデリア姫になる想像をするためにブローチを持ち出し、湖で落とした」と作り話をします。
結局、ブローチは見つかり、マリラは「なぜ嘘を言ったのか」とアンを問い詰めます。

アンの返答。

Why, you said you'd keep me here until I confessed, and so I decided to confess because I was bound to get to the picnic. I thought out a confession last night after I went to bed and made it as interesting as I could. And I said it over and over so that I wouldn't forget it. But you wouldn't let me go to the picnic after all, so all my trouble was wasted.
あら、あたしが何か言ってしまうまでは、ここにいなくてはならないって小母さんが言ったから、あたしピクニックに行かなくっちゃならないもんで、告白しようと決心したのよ。ゆうべ、床にはいってから告白を考えだして、できるだけおもしろいようにしたの。そして忘れたらいけないと思って、何度も何度も言ってみたの。でもやっぱり小母さんは行かせてくれなかったから、あたしの苦労もすっかり、むだになってしまったわ。

マリラは思わず笑ってしまいますが、すまないことをしたと反省します。

Anne, you do beat all! But I was wrong. I see that now. I shouldn't have doubted your word when I'd never you to tell a story. Of course, it wasn't right for you to confess to a thing you hadn't done—it was very wrong to do so. But I drove you to it. So if you’ll forgive me, Anne, I’ll forgive you and we'll start square again. And now get yourself ready for the picnic.
アン、あんたには負けたね。わるかった―わかりましたよ。いままであんたがうそをついたことは一度もなかったんだから、あんたの言うとおりを信じてやればよかったんだね。だけど、自分が、しもしないことを告白したのは正しいことじゃありません―たいへんわるいことです。けれど、そうさせたのはわたしなのだからね。もしあんたが許してくれれば、アン、わたしもあんたを許してあげますよ。そうして二人でまたやりなおそうよ。さあ、ピクニックに行くしたくをしなさい。

村岡花子はアンにマリラを「小母さん」と呼ばせていますが、原文ではお互いをファーストネームかYouと呼んでいます。
マリラの年齢ははっきり書かれていませんが、白髪が見え始めた黒い髪という記述から40代後半から50代でしょうか。アンは11歳です。自分が引き取った孤児相手に自分の過ちを認め、「あなたにうそをつかせたのは私だ」と言えるマリラはなかなかの度量の持ち主です。

子供の頃は想像力豊かでロマンチックなアンにあこがれましたが、今はマリラの公平な考え方とユーモア感覚に感心します。昔、読んだものを何十年もたってから読み返すと、新しい発見がたくさんあります。


そして大人は「赤毛のアン」ワインを飲むという楽しみも。村岡花子ゆかりの甲府のワイナリー「サドヤ」にて。