翡翠輝子の招福日記

フリーランスで女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)を担当し、リタイア生活へ移行中。2023年8月下旬からスペイン巡礼へ。ウラナイ8で活動しています。日本文芸社より『基礎からわかる易の完全独習』刊行。

自分の心から湧き出た音

前回に続き、ボブ・ディランの「テーマ・タイム・ラジオ・アワー」について。

「靴」がテーマの回は、運気の不思議だけでなく、シンプルであることの大切さについても学びました。

オハイオ州のリスナーからのメールが読み上げられました(ディラン先生の自作自演かもしれませんが)。
「この番組であなたのかける曲は、どうしてそんなにすばらしいのか。特に古い曲がいい。最近のレコードは複雑だ」

ディラン先生、我が意を得たとばかりに語り始めます。
ピーター・バラカンの解説によるものです)

昔のミュージシャンは、『何を聴くべきか』だけでなく『何を知らないでいるべきか』をわきまえていた。
つまり、聴き過ぎると、音がごちゃごちゃしてすっきりしなくなる。
1分間に100も音を出さなくても、2、3で十分のこともある。
自分が作る音は、自分の心から湧き出たものでなくてはいけない。
覚えたものをそのまま弾いてもしょうがない。
このテーマ・タイム・ラジオ・アワーでかける曲は、いろんなジャンル、いろんな地方の曲があるけれど、すべてに共通しているのは、心から作った音であるということだ。

これは占い鑑定も同じです。
占いは奥が深く、いくら学んでも学び終わることはありません。
だからといって、鑑定であらゆる占術を片っ端から使えば当たるわけでもありません。
じゃあ、適当なところで学び終えたらいいのかというと、それは単なる怠け者です。
一応は、どんな占術かを知っておき、それは当たらない(自分には合わない)から使わないでおこうと判断するのが誠実な占い師だと思います。

決め手は、「自分にあてはめて当たっているか」「自分がやってみて開運するかどうか」。
ディラン先生のいう「自分の心から湧き出た音」。
四柱推命だったら、自分もしくはこれまで鑑定した人の運気の流れを説明できる鑑定法。
九星気学や風水だったら、自分が実行して効果のあった鑑定法。
本を読んで理屈がわかっただけでは十分ではありませんし、自分ではとてもやらないような突飛な開運法を人に勧めるのもおかしいと思います。

どうせ占ってもらうのなら、幸運な占い師にお願いしたいもの。
「占い師は自分のことは占えないから」といった言い訳もありますが、お金に困っていたり、人間関係がぎくしゃくしている占い師は避けたほうがいいでしょう。

私は占い師というよりメインの仕事はライターです。女性誌のライターは、コスメやファッション、ダイエット、マネー、メディカルなど得意分野を持っています。
駆け出しの頃は、マネーやメディカルの取材ものが多かったのですが、占い学校に行くようになり、徐々に占い原稿にシフトしていきました。

その時に編集者に言われたことが忘れられません。
「肌荒れしているコスメライター、太ったダイエットライター、貧乏なマネーライターには仕事を頼みたくない。自分が書いている原稿の内容を実践していないわけだから。その意味では占いライターが一番大変かも。いつも幸運じゃないといけないから」

出版不況の中でもライター仕事はなんとか続き、数は少ないけれど信頼できる人とつながり、フィンランドとの縁もあれこれ育ってきました。
こうして楽しく暮らしているのは、頭の中で計算するよりも、自分の心から湧き出る音を聞くようにしているからです。

時に「これはあまり気が進まない」という仕事の依頼があります。
断っているのに「そこをなんとかお願いします」と再び頼まれ、つい引き受けてしまうと、おもしろくない結果になります。心の声を封印してしまったからです。

ドン・ファンの教えでは「心のある道」と表現されています。

Look at every path closely and deliberately.
Try it as many times as you think necessary.
Then ask yourself alone, one question...
Does this path have a heart?
If it does, the path is good; if it doesn't it is of no use.
どの道もしっかりと見るんだぞ。
必要とあれば何度でも。
そして、自らに問う。
「この道には心があるか?」と。
もし心があるなら、それは良き道だが、心がなければ、なんにもならん。
(カルロス・カスタネダ『呪術師と私』より)


ヘルシンキ、セウラサーリ野外博物館の道。島全体がまるごと国立公園になっており、フィンランド各地の古い建物が移築されています。
スザンヌのお気に入りの場所の一つで、二人でゆっくりと歩いて島を回りました。