翡翠輝子の招福日記

本業は女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)。副業で外国人に日本語を教えています。フィンランドが大好き。

『ベルリン終戦日記』の掃除シーン

掃除のモチベーションを上げる本や映画が好きです。

たとえば、アガサ・クリスティの『パディントン発4時50分』。

優秀な家政婦のルーシー・アイルズバロウが登場します。
オックスフォード大学を優秀な成績で卒業し、どこにでも就職できたのに、あえて家政婦を選んだという女性です。ハウスキーピングの腕を買われ、予約が殺到。自分が気に入った家とだけ契約し、楽しんで仕事をしています。
ミステリーの謎解きより、彼女の家事の描写に夢中になります。

映画だったら、『バグダッド・カフェ』。

アメリカ・モハーヴェ砂漠の寂寥感ただようモーテルの事務所や部屋をせっせと掃除するドイツ人宿泊者のジャスミン
当初、女主人のブレンダは「勝手なことをしないで!」と怒るのですが、やはり美しい空間は人の心を癒します。
ジャスミンの掃除をきっかけに、登場人物全員にポジティブな変化が起こるのです。見方によっては、「お掃除風水」の映画です。

1945年、ベルリン陥落前後の混乱を記したノンフィクションでも、掃除のシーンが最も印象に残りました。

ベルリン終戦日記―ある女性の記録

ベルリン終戦日記―ある女性の記録

爆撃によって家は破壊され、食料は乏しくなり、いつロシア兵に襲われるかわからない極限の日々。
女性たちは少しでも家の中の秩序を保つことで、精神の平衡を取り戻そうとします。

今日は快晴。私たちは何度も苦労して水を運んではシーツを洗った。ベッドにはきれいなシーツが敷かれた。そうする必要があった、ずっとブーツをはいたお客たちが訪問した後とあっては。

「ブーツをはいたお客たち」とはロシア兵のことです。

ずっと断水が続いたのですが、ようやく水道の蛇口から水が滴ります。
女性たちは大喜びで、すべてが徹底的に水洗いされます。『バグダッド・カフェ』のジャスミンもドイツ人でしたが、ドイツ女性はよほど掃除が好きなんでしょうか。
アパートの2階の未亡人宅に疎開していた主人公も、自分の部屋である屋根裏部屋に戻り、早速掃除に取りかかります。

私は昼食をすますと屋根裏部屋に上っていき、漆喰とがれきの山をかき分けて、ゴミをバケツに入れて階下まで運び、床を拭き掃除した。壊れかけたバルコニーの鉢にチャービルとルリチシャを植えた。

「掃除が面倒」と思えるのは、平和だからこそ。水も洗剤も自由に使えて、掃除のあとはお茶も飲める。
『ベルリン終戦日記』を読んで、そんなささやかな幸せを実感できるようになりました。