翡翠輝子の招福日記

フリーランスで女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)を担当し、リタイア生活へ移行中。2023年8月下旬からスペイン巡礼へ。ウラナイ8で活動しています。日本文芸社より『基礎からわかる易の完全独習』刊行。

フィンランドでは、勤続10年で有休1年

ヨレ・マルヤランタのファン仲間のキョウコさんから「昨年、ホストしたフィンランド人ライターのアンネと会うので、一緒にどうか」と連絡をもらいました。
「同業だから話が合うんじゃないか」とのこと。

新聞記者だそうです。同じライターといっても、組織に属しているジャーナリストとフリーの占いライターでは、かなり違うような…。
しかし、「四国八十八か所巡りを終えて東京に来てるから」と聞き、ぜひ会いたくなりました。

私の実家は真言宗。両親は現在、神戸在住ですが、もともとの実家は岡山県玉野市という瀬戸内海沿岸の街。瀬戸大橋がかかる前は宇高連絡船が出ていました。
そのため中国地方というより四国文化圏に属し、真言宗の開祖・空海は「お大師さん」として親しまれています。

四国八十八か所巡りは、そのうちやってみたいと思っていたのに、フィンランド人に先を越されるとは。ぜひ、会ってみなくては。

キョウコさんは会社勤めなので、カウチサーフィンのホストは週末だけです。
「もし、フィンランド人ジャーナリストが東京でホストが必要なら、うちに来てほしい」とキョウコさんに伝えました。

早速、アンネからカウチリクエストが届きました。
四国八十八か所、すべて徒歩で41日間かけて廻ったそうです。
「あなたをホストするのは、『お接待』。私の先祖はさぞ喜ぶことだろう。これこそ仏縁」
こんなメールをフィンランド人に送る日が来ようとは。

こうして我が家にやって来たアンネ。私より年下ですが、肝が据わっているのは彼女のほう。「アンネさん」が転じて「アン姉さん」と呼ぶことにしました。

アン姉さんに「フィンランドに興味を持ったきっかけは?」と聞かれ、ヨレ・マルヤランタのことを話しました。
ちょうど、ヨレ様のCDがフィンランドから届いたところです。ヨレ様のソロ活動はあまり成功したとは言えないようで、新品で流通しているのは1枚だけ。そこで、中古CDの取引サイトを利用してPayPalで支払い、個人から送ってもらっています。

封筒にはフィンランドの切手が貼ってあり、緩衝材代わりにフィンランドの新聞が入っていました。いつもならさっさと捨てるのですが、切手も新聞もきれいなので、処分できませんでした。

アン姉さんは封筒の差し出し人住所を見て「私の住んでいるところの近く」と驚いたようす。
そして、アン姉さんはヨレ様のCDよりも新聞紙に注目しました。

「この新聞…私が働いている新聞社!!」
なんという偶然。
フィンランドの新聞には、所属している記者の名前が明記されるので、アン姉さんの名前もしっかりありました。

アン姉さんが日本に来るのは6回目。
1年に1ヶ月以上の有休が取れるという恵まれた労働条件に加え、10年同じ職場に勤めると、1年間の有休がもらえるそうです。
フィンランド語でvuorotteluvapaaと呼ばれる制度で、法律に定められているとアン姉さんは言います。

「1年間も休んだら同僚が大変じゃない?」と私。
「その間は失業者を雇うことになっている。失業者は仕事の経験を積むことができるので、とてもいい制度」とアン姉さん。
「会社は休んでいる人にも失業者にも給料を払うのは大変なんじゃない?」
「会社は私の代わりに失業者に給料を払い、私は失業手当を給料として受け取る。だから誰も損しない」

こんなうまい話が世の中にあるなんて信じられません。
悲観主義者の私は新たな質問をします。
「誰がやっても同じ成果が出る仕事なら、成り立つだろう。だけど新聞記者はどう? あなたの代わりに働く人が、あなたよりすばらしい原稿を書いたとしたら、上司はあなたを解雇してその人を雇おうとするんじゃないの?」

アン姉さんの答え。
「1年の有休を理由に解雇されることは法律で禁じられている。失業者が優秀な人なら、1年の実績を元に就職活動ができる。資格がある人はみんな1年休むのだから、有休を取らないほうがおかしいと思われる」

話を聞くうちに、これがフィンランドの国力の秘密かもしれないと思いました。

1年間、収入が保障されていて、好きなことをしていいとしたら、何をするだろう。旅行に出ず、家に引きこもってゲーム三昧、昼からビールを飲むとい暮らしもできるだろうけれど、すぐに飽きてしまいそう。
自分なりのテーマを持たないと、働かなくていい1年間はあまりにも長い。テーマの選び方に個性が出て、結果的にその人の創造性を高め、人間的な成熟をもたらします。
勤続10年、20年というまじめな人が、視野を広げ、多様なアイデアや意見を持つ社会。だからこそ、フィンランドはおもしろいのです。


自らが記者として働く新聞を東京で見つけて大感激のアン姉さん。