翡翠輝子の招福日記

本業は女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)。副業で外国人に日本語を教えています。フィンランドが大好き。

「限定された目的は人生を簡潔にする」

知り合いの編集者が村上春樹の新作の3分の1は舞台がフィンランドだと教えてくれました。

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年
出版当初は品切れ状態だったようでしたが、ようやく街の書店で買えるようになりました。

読み出すと止まらなくなり、一気読み。
主人公の多崎つくるはフィンランドに飛び、高校時代の同級生に会うためにハメーンリンナまで足を伸ばします。
ヘルシンキだけで完結させずに、わざわざハメーンリンナを出すところがおもしろい。
日本旅行を終えフィンランドに帰国したばかりのユハナ君に「そのうちハメーンリンナに日本人観光客が押し寄せるはず。ハメーンリンナに行ったことある? どんなところ?」とメールで聞いてみました。
「2、3回行ったことがある。小さな街だよ。人口は6万人ぐらいで、城と美術館はあるけどね。観光的にはそのくらいかな」

とりたててどうってこともなさそうな街だからこそ、日本での生活に疲れた女性がフィンランド人の夫と娘たちと夏の間、別荘で静かに過ごす舞台にぴったりだったのでしょう。

この小説で大いに共感したのは、多崎つくるの二歳年下の友人、灰田文詔の言葉です。
多崎つくるは鉄道の駅を作ることだけに集中し、大学と学科を選びました。それに対する灰田の感想。
「限定して興味を持てる対象がこの人生でひとつでも見つかれば、それはもう立派な達成じゃないですか」

「限定された目的は人生を簡潔にする」というのが、この本から私が得た教訓です。

この1年足らず、私にとってフィンランドが「限定された目的」となりました。
友人の風水師、優春翠が「そういえば、去年の夏ごろ、奇妙な名前のフィンランドの歌手に夢中になったと聞かされて、それからはあれよあれよという間の展開だったよね」と言います。

アキ・カウリスマキの新作「ル・アーヴルの靴磨き」を観たのが去年の春。カウリスマキ作品を全部観ようと近所のレンタルビデオ店で「トータル・バラライカショー」を借りて、レニングラードカウボーイズのヨレ・マルヤランタの歌声と出会いました。

ヨレ様はソロになってからフィンランド語で歌っているので、9月から中野のスオミ教会のフィンランド語講座に通い始めました。そしてカウチサーフィンを本格的に始め、仕事部屋を整理してフィンランドからの旅行者を泊めることに。

そのプロセスで筋金入りのヨレ様ファンのキョウコさんと出会い、一緒にヨレ様おっかけツアーに行く計画が持ち上がり、ヘルシンキからの旅人を次々とホストして知り合いになりました。

優春翠は「ヨレ様は、フィンランドへ導いく羅針盤みたいな存在だったのでは」と分析しますが、私もそうだと思います。ライブに出かけて、直接会ってみるのもすばらしいでしょうが、映像やCDでヨレ様の歌に触れるだけでも十分満足しています。

フィンランドというテーマを見つけたことで、私の人生はひとつの立派な達成を成し遂げました。


フィンランド滞在の最後の日の午後、多崎つくるはヘルシンキ中央駅のベンチに座り、発着する列車をただ眺めて時間を過ごしました。