翡翠輝子の招福日記

本業は女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)。副業で外国人に日本語を教えています。フィンランドが大好き。

フィンランド、国の光を観る

フィンランドを好きになったきっかけは、アキ・カウリスマキ監督の映画「浮き雲」。
人生を変える映画があるとしたら、私にとってはまさにこの映画です。

失業三部作あるいは敗者三部作(いずれにしても、なんと暗いネーミング!)の第一作。
ヘルシンキのレストランでフロア係長として働く妻、トラム運転手の夫が同時に職を失う話です。
カウリスマキのインタビューによると、「この映画の2割は小津安二郎的世界」だそうです。
映画の着想を得たのも、京都映画祭で来日中に滞在したホテルのバー。そこにはカウリスマキと支配人しかいなくて、その後、同行していたマッティ・ペロンパーが部屋から降りてきました。
「あの男を見ておいてくれ。あれが次のきみの役だ」とカウリスマキは告げるのですが、マッティは急死。
急遽、台本はカティ・オウティネン演じるフロア係長に書き換えられたそうです。

マッティ・ペロンパーに捧ぐ
http://d.hatena.ne.jp/bob0524/20120802/1343833762

「浮き雲」が製作されたのは1996年で日本公開は翌97年。この年の漢字に選ばれたのは、「倒」。北海道拓殖銀行山一證券が倒産した年です。
それでも「浮き雲」を見て、日本よりフィンランドのほうが大変そうだと思ったものです。

90年代初頭にフィンランドで深刻な経済危機が起こりました。
そのあたりの事情は、この本にわかりやすくまとめられています。

フィンランド豊かさのメソッド (集英社新書 (0453))

フィンランド豊かさのメソッド (集英社新書 (0453))

失業率は20%に達し、食べ物を買うお金のない人が食糧援助の例に並び、学校では自宅で食事を摂れない子どものために朝食を用意するほどの不況だったそうです。

大不況から脱するために、政府はIT産業に投資。電気製品の会社だったノキアが携帯電話に力を入れ、フィンランド経済復活を牽引しました。一方、人口が500万人ほどの小国ですから、他国と競争するためには人材に投資するしかないと、教育水準を高めていきました。
スウェーデン、ロシアに侵略され続けた歴史から、フィンランド国民の団結力は強く、痛みを伴う改革も受け入れ、わずか数年で不況から脱しました。

その後のフィンランドの躍進ぶりはうらやましい限り。
WEF(世界経済フォーラム)による国際競争力ランキングでは常に上位に入り、国際的学力調査でもトップレベルです。ノキアが失速しても、ゲーム産業やデータ・センターの誘致などで、フィンランド経済は堅調です。

国際競争力や学力調査だけでなく、幸せな国ランキングでもフィンランドは上位に入っています。
2010年にアメリカの世論調査機関ギャラップが発表したランキングでは、住民が幸せと感じている割合が最も高い国の第1位はデンマーク。2位がフィンランドで、以下、スウェーデンノルウェー、オランダと続きます。ちなみに日本は81位でした。

何をもって幸せというかは人それぞれですから、一概に序列化するのはむずかしいでしょうけれど、たしかにフィンランドに滞在中、いつも穏やかな気持ちで過ごせました。
イライラしている人があまりいません。フィンランド人は、表面上はあまりフレンドリーに見えないのですが、こちらが困っていると知ったら、進んで手を貸してくれるような優しさがあります。
道に迷って歩行者に声をかけると、「すぐそこだし、私は急いでないから」と目的地まで一緒に歩いてくれた人もいました。
あるいは、バスの支払い方法にまごついている人がいても、「あわてなくていいんだよ」とばかりに運転手さんがゆっくりと教えてあげて、乗客も温かく見守っています。フィンランド人が東京の朝のラッシュに乗り合わせたら、あまりの殺伐とした雰囲気におびえるのではないでしょうか。

消費税は食品が17%、他の商品は22%。所得税も高いので、なかなかお金が貯まらないという嘆きも聞きました。
でも、社会保障が充実し老後の不安がないのですから、そんなに貯金する必要はないのでは。
子どもが生まれると国から養育手当てが支給され、教育費は無料です。
高い税金を取られても、その使途に納得でき、国を信頼できるのは大きな安心感でしょう。心配するのは、人間関係やダイエットなど、個人的なことだけで済みます。

フリーランスで働いていると、老後は国民年金だけでは心もとないので、国民年金基金や小規模共済も掛けていますが、安倍政権のインフレ誘導が暴走してハイパーインフレが起こってしまうと、ひとたまりもないでしょう。フィンランド国民は、こうした不安から解放されているのです。

もちろん下を見ても、きりがありません。世界には、政情が不安定で治安が悪かったり、その日に食べるものにも事欠く国もたくさんあるのですから、日本はそう悪いわけでもありません。

これから日本がどうなるのかわかりませんが、ヨーロッパの小国・フィンランドには学ぶべきものがたくさんあると思います。

「観光」という言葉の語源は、「易経」風地観(ふうちかん)の四爻の爻辞です。
「国の光を観る。もって王に賓たるに利ろし」
聖なる王に接近し、その徳が反映する国の光輝を観て、もてなしを受けるという意味です。

かつてのギリシャは観光立国でした。
パルテノン神殿アクロポリスやデルフィの古代遺跡、そして地中海の島々。
いつかは行ってみたいとあこがれていましたが、でも今のギリシャでは、観光どころではなさそうです。

一方、フィンランドの観光スポットといえばムーミン関連スポットや雑貨ショッピング、冬季のオーロラぐらいですが、穏やかで幸せそうな人々と接するだけでも、この国の光を観る価値があります。