翡翠輝子の招福日記

本業は女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)。副業で外国人に日本語を教えています。フィンランドが大好き。

パワースポットとしての辺銀食堂

石垣島では、辺銀(ペンギン)食堂での食事が深く思い出に残りました。

入手困難なほどの人気になった「石垣島ラー油」を作った辺銀食堂のオーナーご夫婦のお話は映画「ペンギン夫婦のつくり方」にもなりました。

石垣島ラー油と、おいしいペンギンごはん

石垣島ラー油と、おいしいペンギンごはん

私は辛いものがあまり得意ではなく、「石垣島へ行ったら八重山そばに蒲鉾でしょ」なんて考えていたのですが、小川糸さんによる辺銀食堂を絶賛するエッセイを読み、がぜん行きたくなりました。
小川さんの小説「食堂かたつむり」は、一つ一つの食材に心をこめて料理する描写がとても素敵なのです。その小川さんが「当たり前のことをきっちりとやっている」と感動する食堂は、どんなところなんでしょう?

とりあえず場所を確認しようと、午後2時頃、店の前まで行ってみました。
その日の昼食はすでに済ませていたのですが、店の外でメニューを眺めていると、中から女性スタッフが出てきました。
「今日はもう、お昼は終わっちゃったんです」といかにも申し訳なさそうに声をかけてくれました。「ラー油のお求めですか? それでしたら、このお店で…」と懇切丁寧な説明が続きます。

この感じのいい対応だけで、辺銀食堂のすばらしさが伝わってきて、その日の夜の予約を入れました。

お正月休み明け、石垣島には観光客はまばらです。辺銀食堂の近辺には飲食店が並んでいますが、ほとんどの店はガラガラです。
辺銀食堂だけが、満席。シーズンオフでこれなのですから、観光シーズンは予約を取るのも大変かもしれません。

夜のスタッフのサービスも、とても丁寧なものでした。
店内はゆったりとテーブルが配置されています。これだけ流行っているのならもっと詰めて席を増やすこともできるだろうに、そんな発想とは無縁のようです。

オーナー夫妻は店全体のようすに心を配っています。
冬の石垣島は夜になるとかなり冷えます。私の席は電気ストーブのすぐ隣だったのですが、ご主人は私に「暑くないですか?」と声をかけてくれました。
「麻婆豆腐をいただいて、身体の中からぽかぽかしてきました」と私。
「そうでしょう、カプサイシンが効きましたね」と嬉しそうなご主人。

人気が出て、横柄になる飲食店オーナーも多いというのに、このご夫婦は辺銀食堂を本当に慈しみ、愛する子どものように育てていることがよく伝わってきました。

「当たり前のことを、きちんとやる」
簡単そうでいて、とてもむずかしいことです。
レストランだったら、おいしい料理を出して、お客のひとりひとりに目を配り、丁寧な接客をすること。

私はどうだろうか。
締切がタイトだから、とにかく間に合わせなくちゃいけないと、とりあえず文字数を合わせて入稿…。
せっかく原稿を書く機会を与えられたのなら、時間が許すかぎり、ベストな文章になるまで推敲すること。出版不況を嘆く前に、ライターとして当たり前のことをきちんとやらなくては。

辺銀食堂の夕食では、おなかがいっぱいになって締めの麺までたどり着けなかったので、翌日のランチで、ジャージャンそばとイスラム風すぱの二つの味を堪能しました。

食べ物は「ぬちぐすい(命の薬)」。

仕事だけでなく、食べることも、毎食、きちんと食べ物に向き合っていただくことを積み重ねられたら。
そんなふうに感じるきっかけを与えてくれた辺銀食堂は、石垣島最大のパワースポットでした。