翡翠輝子の招福日記

フリーランスで女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)を担当し、リタイア生活へ移行中。2023年8月下旬からスペイン巡礼へ。ウラナイ8で活動しています。日本文芸社より『基礎からわかる易の完全独習』刊行。

非バトル系の人間力

火曜日の夜、阿佐ヶ谷ロフトAで、「ニートの歩き方」のphaさんと「ナリワイをつくる」の伊藤洋志さんの出版記念イベントが開かれました。
テーマは「戦わない生き方」です。

二人の本はとてもおもしろかったので、トークショーにも期待して出かけました。
d.hatena.ne.jp


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担当編集者の方も会場に来られていて、どちらの本も4刷になっているとか。うらやましい限りです。
phaさんは「あまり売れると、叩かれる」と複雑な表情でしたが。

トークショーは午後7時半から休息を挟んで11時過ぎまでの長丁場でした。

「働きたくない」と、もっと堂々と言っていい。
「何もしない」は、贅沢なこと。
「だるい」という感覚を大切にしたい。
そんなphaさんにとっては、かなりの負担だったではないでしょうか。
10時過ぎに一度、退席されたときは、「だるくなって、このまま帰っちゃうんじゃないか」と不安になりましたが、無事に戻ってきてくれました。
まだ10月になったばかりですが、このイベントが終わったら、今年はもう何もせず、隠居生活に入るそうです。

伊藤さんは「田舎で土窯パン屋を開くワークショップ」「モンゴル武者修行ツアー」「全国床張り協会」など、ナリワイの数々を紹介。
「仕事が人間と人間の媒介となる。それが楽しい」という言葉が印象に残りました。
「木造校舎ウェディング」では、インテリア雑誌のスタイリストをしていた方が、会場の飾り付けを担当したそうです。

司会の米田智彦さんはライターですから、出版業界の窮状を身をもって体験しているのでしょう。
「雑誌の数が減っていく中、編集者、ライター、カメラマン、スタイリスト、みんな仕事がなくなっている。これまで培った技能をどう展開させていくかが課題」「原稿料はこの30年変わっていない。それどころか、ウェブによって価格破壊が起こり、逆スパイラル状態。文章だけではとても食っていけない時代」のようなことをおっしゃっていました。
身につまされます。

阿佐ヶ谷ロフトAに行ったのは2回目です。
前回は2年前、「リストラなう」のたぬきちさん。光文社の早期退職制度に応じて会社を辞めるプロセスをブログに書き、新潮社から出版した方です。
このときは、出版界の大御所が壇上に並び、それぞれが自説を語るのに時間が取られ、たぬきちさんの肉声があまり伝わってきませんでした。
たぬきちさんは、どちらかというと非バトル系なのに、業界のバトル系が寄ってたかってたぬきちさんをネタにしているようで、消化不良の思いが残りました。
テーマがリストラだったし、明るくなる要素が何もなかったから、しかたがないことでしょうけど。

その点、今回の「戦わない生き方」は、楽しいトークショーでした。
八方塞がりの今の日本でも、発想を変えれば、なんとかなると楽観的になれました。
phaさんと伊藤さんは「非バトルタイプ」を名乗るぐらいだから、自己顕示欲とは無縁ですし、司会の米田さんも、出すぎることなく上手にphaさんと伊藤さんのお話を引き出していました。

単にフリーターやニートになるだけなら簡単ですが、phaさんや伊藤さんのような生き方は、誰もができることではありません。

これは、カウチサーフィンも同じです。
旅先で泊めてくれる人がいれば、お金がなくても海外旅行ができます。
でも、泊めてもらうためには、メールで連絡を取りながら、自分はあやしい者ではなく、一緒に過ごしていかに楽しい存在であるかをアピールしなくてはいけません。写真を見て断られることだってあるでしょう。
ホテルに泊まるほうがずっと簡単です。お金さえ払えば、誰でも泊まれるのですから。

とりあえず何かの職に就けば、労働の対価としてお金が入り、それで食べていけます。
それに対してphaさんや伊藤さんは、人間性そのものが問われる生き方をしています。
実際に二人の話を聞いて、そこに改めて感心しました。

質疑応答の時間で、これから就職活動をするという学生さんが「何かアドバイスを」と質問しました。
この二人にその質問をするの、と会場から苦笑が漏れましたから、それぞれの答えはなかなかのものでした。
伊藤さんは「とりあえず、観察すればいい」。
文化人類学のフィールドワークみたいに、今の日本の就職活動はこんな感じ、働いてみると実態はこうだ、と外国に調査に行くような気持ちでやってみたらというアドバイス
phaさんは、「会社に入ってみることで、はっきりわかる」。
働くのがだるいと思っていても、「やればできるかも」と考えがちです。
でも、実際に働いて見ると「みんなやっているけれど、自分にはとても無理」とはっきりわかったそうです。
「一回、やってみると腹が決まる。就職しないでいたら、もしかして、自分もあっち側で生きていけたのじゃないかと思ってしまう」
まじめな人はそこで降りることができず、体を壊したり、うつ病になったり、過労死や自殺という悲惨な道を選ぶことだってあります。

phaさんや伊藤さんをそっくり真似ることはできなくても、二人の生き方は参考になります。自分なりの方法で「会社に勤めなくても生きていける」と気づいてほしいものです。

左から米田さん、伊藤さん、phaさん。