タロット占いをするとき、お客さんにこんな説明をします。
「出るカードはすべて正しい。私が占い師としてここにいるのは、カードの意味を通訳するため。もし、はずれていると感じたら、それはカードが間違っているのではなく、通訳がヘタだからです」
先日の朝日新聞日曜版GLOBEに同時通訳者・長井鞠子さんのインタビューが掲載されていました。
外交やビジネスの通訳では、一つの単語が交渉の行方を左右しかねない。そんなとき長井は、手のひらにじっとりと汗をかくほど緊張する。だが、びくびくしていたら、いい通訳はできない。
「自分の判断を信じて、えいやっと訳す。一つ仕事が終わると、どっと疲れるのよ」
<中略>いつも話し手の言葉に忠実に訳していればいい、というわけでもない。
その場の空気を読んで表現を工夫したり、話し手の意向を汲んで意訳したり、長井の通訳には「幅」のようなものがある。
「だからこそ、どんな状況にも対応できる」と同僚らは言う。
友人に予約2ヶ月待ちという人気占い師がいるのですが、彼女からのアドバイスの一つに、「鑑定では、あいまいな表現を使わない」というものがあります。
占いを外すのを恐れて、「あなたは病気になるかもしれない」「彼と別れる可能性もあるでしょう」と言いたくなります。
でも、鑑定客にとっては「病気」「別れ」という単語を聞いた途端、「占い師から病気になると言われた」「別れると言われた」とインプットされるのです。
だったら最初から「このままでは病気になる」「別れる」と言ったほうがいい。
びくびくしてごまかすより、えいやっと断言するのです。
簡単なコミュニケーションなら機械でも事足ります。でも、通訳という職業は決してなくならないでしょう。
毎朝テレビでは12星座別の運勢が流れ、ネットには無料占いがあふれています。
それでも、占い師との対面鑑定を望む人がいるのは、鑑定結果を伝える占い師の意訳が求められているからです。
たとえば、周易。
得た卦と爻の意味を伝えるにしても、単に漢文を現代語に訳しているだけでは、おみくじと同じです。
また、伏卦、錯卦、交易生卦、越爻生卦などの手法を使って解釈しても、マニュアルのように順番に伝えていくだけでは、鑑定ではなくて易の講座になってしまいます。
お客さんの置かれた状況、占的を踏まえた上で、えいやっとポイントを定めて占い、表現を工夫するために四苦八苦しています。
言葉は生き物ですし、正しく訳すためには時事ニュースにも常に触れておく必要があります。通訳という職業は、一生が勉強の連続でしょう。占い師も同じです。