翡翠輝子の招福日記

フリーランスで女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)を担当し、リタイア生活へ移行中。2023年8月下旬からスペイン巡礼へ。ウラナイ8で活動しています。日本文芸社より『基礎からわかる易の完全独習』刊行。

江戸東京博物館で考える「働く意味」

京都に交換留学中のフィンランド人のヘンリク君が東京を訪れ、彼の希望で江戸東京博物館へ。

彼が初来日した4年半前に一度行って、よほど気に入ったのか再訪したいとのことでした。

 

江戸東京博物館のすばらしいところは、常設館のボランティアガイド。日本語だけでなく、英語・中国語・韓国語・フランス語・スペイン語・ドイツ語・イタリア語に対応しています。日によって対応言語が異なるそうですが、前回も今回もラッキーなことに当日申込で英語のボランティアガイドがついてくれました。

 

今回のガイドは、60代ぐらいの男性。「時間があるなら1時間半ご案内しますが、お急ぎなら短くもできます」とのこと。

ヘンリク君にとって日本史のおさらいをするのは有意義だろうと、じっくりコースでお願いしましたが、日本人の私にも興味深い内容でした。。

 

徳川幕府の成り立ちから江戸の市民生活、明治維新、太平洋戦争から現代まで情報量満載の英語ガイドでした。グループ向けではなくプライベートガイドのようなものですから、質問も自由にできます。

たとえば、鎖国の時代、ヨーロッパの国でオランダだけ日本と交流できました。それはオランダ人が実利主義で、キリスト教の布教を考えなかったから。スペインやポルトガルは宣教師を送り込もうとしていましたから江戸幕府は容認できなかったのです。

 

ヘンリク君が特に興味を持ったのが、江戸時代の風俗を描いた屏風絵。豪華なお弁当持参の花見や吉原に繰り出す旦那衆などが描かれています。

「この屏風絵は何のために描かれたのですか?」とヘンリク君がガイドさんに質問。

ガイドさんの回答は「江戸はこんなに楽しいところだと参勤交代で帰った地元の人々に見せびらかすためでしょう」。

「なるほど、江戸時代のインスタグラムだ! 時代が変わっても人がやることはそんなに変わらないものだ」

ヘンリク君はいつもユニークな発想で楽しませてくれます。

 

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4年前とは説明の内容が違っていました。

前回は女性の方で、江戸の暮らしやエンターテイメントを詳しく説明してくれましたが、今回は歴史や社会体制の変遷が中心でした。決まったマニュアルはなく、ガイドの内容は個人に任されているのかも。

それにしても大変な仕事です。広い館内の展示を回りながら解説し見学者からの質問にも臨機応変に答える。今回担当してくださった方は、英語を使う職業で退職後ボランティアに志願したのかもしれませんが、あれだけの能力と労力を報酬に換算したらいったいいくらになるんだろうと、世俗の欲にまみれた私は考えてしまいます。

 

1月3日の日本経済新聞朝刊の「逆境の資本主義」シリーズ第2回には、ケインズの予言が紹介されていました。

100年後には1日に3時間も働けば生活に必要なものを得ることができるようになるだろう。

ケインズがこれを書いたのは1930年ですから、100年後の2030年まであと10年。

日本政府としては高齢者に死ぬまで働いてほしいでしょうが、30代や40代で経済的独立を果たしてアーリーリタイアをする人もいます。

英語ではFIRE(Financial Independence, Retire Early)。通常、fireといえば解雇ですから、遊び心のある呼び方です。

私もリタイアを考えていますが、経済的独立以上に気になるのが、あり余る時間をどう使うかです。暇を持て余して朝からアルコールに手を出すようになっては目も当てられません。

 

裏道は用心して履(ふ)むべし

年初に箱根駅伝のテレビ中継を見るのは、極めて運のいい人たちの姿を拝みたいから。

 

陸上を志して箱根路を走るためには、才能と努力だけでなく、運も必要です。

親の理解があるか。そこそこのレベルの陸上部がある高校に進学できるか。そして、どの大学を選ぶか。身体能力だけでなく学力も問われるます。強豪校に入ると精鋭ぞろいメンバーに選ばれないリスクがあり、中堅校だとシード権を失って予選で敗退ということも。晴れて走者に選ばれたとしても、当日のコンディションが悪いと補欠選手との入れ替えだってあるでしょう。

 

そうした数多くの関門を潜り抜けた学生たちが東京から富士山に向けて走り、翌日には東京に戻ってくる。東京に住む者にとっては箱根というと小田急ロマンスカーで日帰りもできる気楽な旅路なのに、一歩一歩大地を踏みしめるランナーたち。

 

箱根駅伝に出場する20大学に加えて、出場権を得られなかった大学から1校1人で選ばれる関東学生連合チームも参加します。

今年の主将を務め、最終ランナーとして10区を走ったのは東京大学の阿部飛雄馬選手。「飛雄馬」という名前は元高校球児のお父さんの命名だけど、野球を強制されたことはなかったそうです。

 

たまたま目にした阿部選手のインタビュー記事で、あまりのユニークな発想に脱帽しました。

地元の進学校に進み、高校総体では障害走を選択。強い選手は長距離走を選ぶので、障害走は「穴場」だったから。そして、箱根を走るために東大に挑戦。浪人中は毎日12時間予備校にこもったというから、文武両道で努力できる人なのでしょう。

 

阿部選手ほど突き抜けていませんが、誰もが目指す王道ではなく裏道をいつも探してきた私。「人の行く裏に道あり花の山」という相場格言は座右の銘です。

 

しかし世間を出し抜く裏道は、危険もいっぱいです。

 

阿部選手の東大から連想したのは、昨年の年末に起こった「東大最年少准教授」を自称するAI研究者の炎上騒動。先端分野で日本最高峰の知性を持っているはずなのに、ネトウヨまがいのツイートを繰り返しました。

この准教授は、高専から筑波大学編入し大学院へと進学。国立大学の入試では理系でも歴史などの雑学を詰め込まなければならないから、高専からの大学編入こそ最も効率のいい進路だと推奨しています。

 

なるほど、こういう手があったか。もし私が理系の高校生だったら、大いに心動かされたでしょう。

 

この准教授は東大生え抜きの大御所から「教養学部の必修カリキュラムを修めたなら…ここまでひどい無教養を晒すことはなかった」と批判されていますが、それもどうでしょう。東大は意識の高い学生が多いのかもしれませんが、普通の大学での教養科目は単位さえ取れたらいいといういい加減な学生だらけでした。一般入試を経て教養課程も修めた大卒のネトウヨだって掃いて捨てるほどいます。

 

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六十四卦の一つ「天沢履(てんたくり)」。正しく道を履(ふ)まないと、虎の尾を履むと戒めています。

占いは天の秘密を垣間見て、自分に合った裏道を探すという側面もあります。裏道だからこそ、用心して履まないと落とし穴が待ち受けています。

 

人は変わるし、変わらない

2020年こそは、もっと家をきれいに保ち、お酒の量を控えたい。だらだらネットを見るのもやめたい。

しかし、年が変わったぐらいで人間が変わるわけがありません。元日から掃除をするのもはばかられるし、朝からお屠蘇を飲んで気が付いたら夕方。早くも1月1日にはいつも以上の怠惰コースをたどります。しかも3が日はスポーツクラブのレッスンがありませんから、生活は乱れ放題です。

 

易の解説書を読んでいると、易には3つの意味を含むとあります。

 

「簡易(たやすい)」「変易(変わる)」「不易(変わらない)」。簡易はわかるけど、変わるのか、変わらないのか、いったいどっちなんだ!

 

解説によると、宇宙も人も刻々と変化するけど、その動きには変わらない法則がある。人間の運命も小宇宙のようなもので、気まぐれのようでいて、法則性が流れているというのです。

 

易と同じように、人も変わるし、変わりません。

お正月はスポーツクラブのレッスンがないのが不満ですが、子供の頃の私は体育が大の苦手で、体育のある日は学校に行きたくありませんでした。体育の教師の高圧的な態度も大嫌いで、体育祭の入場行進の指導は軍隊みたいだと忌み嫌いました。

 

30歳でフリーランスのライターになってスポーツクラブに入会したのは、水泳だけは人並みにできたから。プールで人と競うことなく自由に泳ぎ、ズンバに出会った時は、こんなに楽しく体を動かせるエクササイズがあるのかと感動しました。

 

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年末、我が家に滞在したフィンランド人のヘンリク君。最初のホームステイの時は18歳で、育ちのいい礼儀正しい少年でしたが、のんびりしているところもあり、忘れ物をして学校に行ってはらはらさせられたこともありました。その頃の口癖は"That's not a big problem"。

 

二度目来日は高校卒業後、1年間の兵役を終えたあと。軍隊生活をあれこれ話してくれたのですが、「シーツやタオルをたたんで1ミリでもずれていたらやり直し」というし、何度も口にするのが"Everything is under control"というフレーズ。私のいい加減な家事を見てどう思うのだろうかと不安になりました。

 

しかし、三度目の来日ではちょうどいいゆるさのヘンリク君に戻っていました。

私だって、体重が危険水域に達したら断食施設やヨガの断食に通いますが、しばらくは節制が続くものの、やがては元に戻ってしまいます。

そういう繰り返しが人生なんでしょう。

 

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 羽田空港の早朝出発のため「変なホテル」に泊まりました。フロントでは恐竜とロボットがお出迎え。音声かタブレット入力でチェックイン手続きをします。

経営するHISによれば「変なホテル」は「変わり続けるホテル」だとか。人間、変わるのをやめたら死ぬだけです。今年もどんどん変わって変な人間になりたいものです。

 

レニングラード・カウボーイズから『ヘヴィ・トリップ』へ

京都工芸繊維大学に交換留学しているヘンリク君。大学の冬休みを利用して東京に遊びに来ました。

 

初めて会ったのが4年半前の夏。

我が家で初めて受け入れるホームステイということでかなり緊張していたし、ヘンリク君のほうも、一族で初めて日本語を学び日本に留学するとあって緊張していたと思います。

 

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 私がフィンランドにハマったのは、アキ・カウリスマキ映画のレニングランド・カウボーイズのせいです。ソ連アメリカも大嫌いというへそ曲がりなカウリスマキが映画のために作ったバンドですが、その後ヘルシンキ大聖堂前の大広場で大コンサート(トータル・バラライカ・ショー)を開くほどになりました。ボーカルのヨレ・マルヤランタに夢中になり、何度映像を観たことか。

 

ヘンリク君の両親が来日し、お父さんはあのコンサートの観客だったことを知り、大いに盛り上がりました。

 

私がフィンランドを好きなのは、風変わりなユーモアを好み、権威を嫌い、人間関係がフラットだから。

カウチサーフィンでフィンランドを旅した時、「観光スポットじゃなくてフィンランドの生活が知りたい」とホストに話すと「子供が通っている小学校を見学してみる?」「一緒に職場に行こう」という展開に。小学校の先生は時間を割いてインタビューに応じてくれるし、職場の人々も見知らぬ外国人を歓迎してくれました。

 

ヘンリク君がフィンランドのスタートアップイベント「スラッシュ」の東京イベントや京都工芸繊維大学の交換留学で来日するたびに気楽に再会しているのも、フィンランド人の国民性が影響しているのでしょう。

 

そして、今回はフィンランド風のユーモアを楽しむために映画『ヘビィ・トリップ』を一緒に見に行きました。読むだけで笑いが止まらなくなると話題になったあらすじ。  

フィンランド北部、何もない田舎の村。退屈な日々を送る25歳のトゥロは、“終末シンフォニック・トナカイ粉砕・反キリスト・戦争推進メタル”というジャンルを標榜する、4人組ヘヴィ・メタルバンドのボーカルだ。バンドは結成から12年間、一度もステージに立つことなく、一曲もオリジナル楽曲を作ったこともなく、単なるコピーバンドだ。だがある日、遂に自分たちの曲を作るという強い意志のもと、メンバーの試行錯誤の末にとてつもなくキラーな名曲が誕生した。また同時にひょんなことからノルウェーの巨大メタルフェスの主催者がメンバーの家を訪れ、バンドに千載一遇のチャンスが舞い降りる。
バンド名は“インペイルド・レクタム"(Impaled Rektum ※直訳すると直腸陥没)に決定、ハイウェイの自動速度取締機を使って初のアーティスト写真も撮った。だがいざ地元のライブハウスで初の前座を務めたとき、緊張したトゥロが大嘔吐するという前代未聞の惨劇に終わった。ノルウェーのフェス参戦も水の泡と化し、バンドは敢え無く解散した。さらに愛すべきドラマーのユンキがハイウェイを爆走中にトナカイを避けて事故で死んだ。トゥロは亡き友人を想い涙し、自身の不甲斐なさを恨んだ。ユンキのため、仲間のため、そして自身のため、トゥロはバンドを再結成し、ノルウェーに乗り込む決意を固める。残された3人は盗んだバンに墓地から掘り起こしたユンキの棺桶を乗せ、精神科病院からドラマーを誘拐したのちノルウェーへと逃亡。フィンランド警察から追われ険しいフィヨルドを駆けながら夢のフェスを目指す。だが国境では彼らの前にノルウェーの “デルタ部隊”が立ちはだかる。進め!インペイルド・レクタム!目指せ巨大フェス!フィンランドが誇るインペイルド・レクタム誕生の瞬間を、メタル満載、盗難事件あり、バイキング船の堂々たる巡航あり、果てはフィンランドノルウェーの武力紛争にロマンスもあり!で描く、まさに破天荒な鋼鉄のロードムービーが日本上陸。


映画『ヘヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!』予告編

 

シネマート新宿は封切初日のせいか、熱気に包まれていました。「世界一まずい飴」と書かれたサルミアッキの試食もあり、ヘンリク君は大喜び。「フィンランド人だから」と映画館のスタッフに告げると、「お昼の上映にはフィンランド大使も来て、たくさんサルミアッキを食べた」とのこと。

映画のチラシには「日本・フィンランド外交関係樹立100周年を祝う2019年を『ヘヴィ・トリップ』で締めくくるのは意義深いことです」というフィンランド大使のコメントが。おいおい、本気なのか。この映画のキャッチフレーズは「後悔するなら、クソを漏らせ!」なんですけど。

 

30年ほど前、アイルランドの国立日本庭園の記事を書いたことからアイルランド大使館のイベントに呼ばれるようになり、アラン・パーカーの映画『ザ・コミットメンツ』を大使と一緒に観たことがあります。ダブリンの下町で結成されたバンドを描いていて私はしっかり楽しみました。ところが観終わった大使は気分を害し「あんな汚い英語で映画を撮るなんて!」と吐き捨てていました。

アイルランドは土着のカトリックとイギリス系のプロテスタントで階級社会が続いているのでしょう。その点、フィンランドはフラットです。

 

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見渡したところ、観客にフィンランド人はヘンリク君一人でした。

 

上映が終わると、観客席から自然発生的に拍手が起こりました。そして売店には公式Tシャツを求める長蛇の列が。フィンランドの映画が日本でこんなに愛されているなんて。ヘンリク君は大感激でした。

 

帰宅後、この映画について語りまくりました。ヘンリク君によると台詞にはフィンランドスタイルのユーモアが散りばめられていて日本語字幕ではすべてが反映されていないだろうとのこと。ノルウェーのシーンもあったけれど、ヘンリク君の母語スウェーデン語でノルウェー語と似ているからだいたい理解できたそうです。

 

「仲間の棺桶と一緒にバンドが旅するのは、アキ・カウリスマキの『レニングラードカウボーイズ アメリカに行く』へのオマージュだろう」と私。

「すごい、フィンランド人の僕でもそんなことは知らない」

そりゃそうでしょう、レニングラードカウボーイズの映画はヘンリク君が生まれるずっと前に作られたのですから。


Leningrad Cowboys Go America Movie Clip

 

レニングラードカウボーイズに始まり『ヘヴィ・トリップ』のインペイルド・レクタム(直訳:直腸陥没)へ。ずいぶん長い旅路でした。

 

冬至に二つの太陽

陰が極まって一陽来復となる冬至は、易者にとって一年で最も重要な日です。この日に一年間の成り行きを易で占います。

 

ウラナイ8の天海玉紀さん、夏瀬杏子さんのおかげで続いてきた冬至の年筮の会。おかげさまで今年は午前と午後、そしてウラナイ8メンバーの夜の会と三部構成になりました。

 

冬至の貴重な一日、参加くださった皆様、本当にありがとうございました。得た卦がすぐにピンと来た方、あるいは漠然としている方もいらっしゃるでしょう。これからの一年、折に触れて卦を思い出し「あ、そういうことだった」という気付きがあれば幸いです。

 

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ウラナイ8の年筮の会。中央で筮竹をさばいているのが私です。

メンバーが同じ服を着ているのは、横浜のスパイアスで開催したから。玉紀さんがプレミアムルームを押さえてくれました。

 

今年の春、自宅マンションのリノベでホームレス状態となり、スパイアスにはさんざんお世話になりました。 

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お風呂以外にくつろげるスペースもたくさんあるのですが、筮竹を取り出すと怪しい団体でしかないので、間仕切りのある場所が必要です。インスタ映えするいかにも女子会的な空間で、易神もさぞかしびっくりしたでしょうが、おもしろがってもらえたと思います。

 

私が得た年筮は離為火(りいか)。離為火が出た時点で、三爻を得るような気がしました。火が西に傾く、すなわち老いを受け入れて酒の缶を叩きながら歌い、残光を楽しめという爻辞です。

しかし、初爻でした。年齢からすれば老いて熟成してもいいはずなのに、相変わらずの下っ端。どこへ進んだらいいか、おろおろしている状況です。

 

太陽を象徴する離が重ねて出たので、二足の草鞋を続けるということかも。八卦の離は闇を照らす火であることから文化文明を象徴し、職業としては文筆業、占術家を示します。さらに株や相場も離が司ります。日本語教師をやめたので、本業のライターと占い、あるいは投資。初爻だから大きな勝負には出ず、小商いとなりそうですが。

 

毎年、冬至が巡る旅に「占いをやっててよかった」と思います。常に学ぶべき対象があって一生退屈することがなく、仲間もいます。これ以上、望むことがあるでしょうか。