翡翠輝子の招福日記

フリーランスで女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)を担当し、リタイア生活へ移行中。2023年8月下旬からスペイン巡礼へ。ウラナイ8で活動しています。日本文芸社より『基礎からわかる易の完全独習』刊行。

これやこの 行くも帰るも 別れては

2018年も終わりつつあります。

 

ライター業は出版業界全体の縮小で徐々に仕事が少なくなった一年でした。

ありがたいことに週刊誌と月刊誌の連載が続いているので、本業と言えるのですが、活字媒体の衰退を思えばいつ打ち切りになるかわかりません。

 

副業の日本語教師外国人労働者受け入れの流れで、どうなるかわかりません。

私がメインで教えている学校は、観光ビザで留学してくる欧米の学生が対象なので直接の影響はありません。でも、就労目的の留学生相手の日本語学校が淘汰されれば日本語教師が余り、競争が激しくなるでしょう。そもそも3年目の私が古いほうから数えて2番目となるほど流動性の高い職場ですから、数か月先のことも予測できません。

 

まあ、何が起こってもしかたがないか。

国は高齢者も働かせたいのだろうけど、私は還暦でリタイアしたいし。

 

この夏、教えた学生でひときわ印象に残ったのがアメリカ人のピーター。

ボストン生まれ、金髪碧眼のアメリカ人ですが、日本語はかなりのレベル。ボストンの日本語学校でも学び、かるた部に所属しています。

 

ピーターがアメリカに帰国した直後、NHKのEテレの「100分de名著」がティーンズ向けに百人一首を取り上げました。

 

これやこの 行くも帰るも 別れては

知るも知らぬも 逢坂の関

 

解説の木ノ下裕一氏によると、「これやこの」「行くも帰るも」「知るも知らぬも」というリズム感はまさにラップ。そして、行ったり来たり、出会ったり別れたりを繰り返すとという突き抜けた視点。

 

日本語学校の私が教えているクラスも「逢坂の関」みたいなものです。

毎週、新しい学生が入って来て、卒業していく学生がいます。

卒業前でも、クラスがつまらないと感じた学生は他の選択クラスに移動しますし、受講中の学生が友達を連れてくることもあります。

 

「はじめまして」と「さようなら」を何度も繰り返して、年末を迎えました。

日本語学校のクラスだけでなく、人生そのものが「逢坂の関」です。

初めての人は大らかに迎え、去って行く人に未練を持たない。そんな風にして来年一年も逢坂の関を楽しめたらと思います。

 

 

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熊本の小泉八雲旧邸。八雲は特注して神棚を作ってもらい、毎日、拝んだそうです。

ギリシャからアイルランドアメリカを経て日本にやって来た小泉八雲は、いったい何回の出会いと別れを体験したのでしょうか。

 

 

人生のアマチュア

アン・タイラーの小説は、年を重ねて再読するたびに味わいが増します。

 

bob0524.hatenablog.com

 

『結婚のアマチュア』も、結末がわかっているのに、ページを開くと一気に最後まで読んでしまいました。

 

結婚のアマチュア (文春文庫)

結婚のアマチュア (文春文庫)

 

結婚30周年を迎えたパーティーで離婚を決意する夫のマイケル。

いつもの夫婦喧嘩だと深刻に考えなかった妻のポーリーンでしたが、マイケルは本気でした。

 

この二人が初めて出会ったのは1941年の12月。日本が真珠湾を奇襲攻撃して戦争が始まった年です。

実家の食料品店で働くマイケルは戦争に行くつもりはなかったのに、熱しやすいポーリーンは愛国者となり、マイケルはポーリーンの期待に応えるために志願します。

 

日本がアメリカに負けたのも当然かも。とんでもないほど国力の差があります。当時の日本は召集令状が来たら戦地に赴くしかない悲壮な状況だったのに、アメリカは色恋沙汰で軍隊に志願できたとは…。

ボルティモアの街から出征する若者の父親は「俺たちの力をジャップに見せてやれ!」と叫び、市場で魚をさばいていた日本人の老人はひっそりと姿を消します。「どこに行ったのだろう、とってもいい人だったのに」とポーリーンは思います。

 

マイケルは戦地に赴くことなく、訓練中に負傷して帰ってきます。

戦時中の高揚感と若さの勢いで結婚する二人。

それから30年たった1972年、結婚生活はそれなりに楽しかったとポーリーンは言うのですが、マイケルから出た言葉は「楽しくなんかなかった。地獄だった」。

 

マイケルとポーリーンの結婚生活だけでなく、アメリカ庶民の生活史も垣間見えます。

アメリカの夫婦は姑と同居なんかしないと思い込んでいたのですが、マイケルの母親は死ぬまで息子夫婦と暮らします。しかも結婚後数年間は一家が営む食料品店の2階に住み、夫婦喧嘩の声が従業員に筒抜けになるような狭さです。

姑が亡くなった時、最も悲しんだのは嫁のポーリーン。これだけでも申し分のない妻だと思うのに、マイケルは気分屋で少々エキセントリックなポーリーンに耐えられなくなってしまいます。

 

マイケルは「自分たちは結婚のアマチュアだ」と考えます。

入隊を決めた日、新兵たちが市内を行進した。結婚もそれと同じようなものではないか。ベテランは列を離れるけれど、アマチュアは残る。

ふつうの夫婦は、経験を積んで賢くなり、自分の役割に安らぎを見出していくのに、自分とポーリーンだけは未熟なままでアマチュアのパレードに取り残された最後のカップルのようだ。

 

50代の半ばを過ぎ、還暦も近いというのに、私はいつまでも「人生のアマチュア」」のような気がしています。高齢者になるという経験も初めてだし。

世慣れて見えるような人だってきっとアマチュアなんだと自分に言い聞かせて、これからの歳月を生きていきます。

  

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高地旅行の時に見た土佐犬の子犬。大きくなったら立派な闘犬になるのでしょうか。

戦いたくない、いつまでも子犬でいたいという犬だっているのでは。

冬至の年筮の会と「ピレネーの地図」

 

天海玉紀さんと夏瀬杏子さんのおかげで、冬至南阿佐ヶ谷のウラナイ・トナカイで開催する年筮の会。

陰が極まって陽が生じる冬至は、易者にとって一年のスタート。一年間の成り行きをみる卦を立てます。

 

「64卦の何爻がだから、一年の運勢はこうなる」というよりも、得た卦がその人にとってどんな意味を持つかを考えて、どう行動すればいいのかを探っていきます。

 

今年は午前と夜の二部制。連続して参加してくださる方もいて、去年の卦の意味を確認して、今年の卦を立てていきました。

 

慣れない手つきで筮竹を持ち、得られた卦の見慣れない漢字の意味を考える参加者の姿は、日本語学校の作文クラスの外国人学生と同じだと思いました。

私の教えるクラスは、同じ内容を全員が一斉に学ぶのではなく、各自が表現したいことを日本語のレベルに応じて書くというスタイルを採用しています。

 

易の理論をすべて講座で伝えたり、外国人学生に基礎から日本語文法を積み上げていくのは時間がかかるし、途中で挫折する人も出るでしょう。

 

まず自分が知りたいこと、表現したことに必要な手助けをするのが講師の役割で、一般的な理論ならネットや本でいくらでも独学できます。

 

日本語学校の作文クラスにはハンガリー人の優秀な学生がいて、彼の作文ネタのためにハンガリーに関する話題を集めるようにしています。

 

ピレネーの地図」は、そうして知りました。

 

ハンガリー軍がアルプス山脈に偵察隊を送り出した。吹雪となり、偵察隊は2日間戻って来なかった。遭難して凍死したのではないかと思われていたところ、3日目に偵察隊は帰還した。

偵察隊の話。

「道に迷い、もうだめかと思ったが、隊員の一人が地図を持っていた。我々は冷静になり、野営して吹雪をやり過ごし、地図で帰り道を見つけた」

 

ところが、その地図はアルプスの地図ではなくピレネーの地図だった。

 

 この話の真偽は定かではありませんが、どこに向かっていいかわからない時、とりあえず地図があると思えば、冷静になれます。

 

生きていくことは選択の連続で、私たちはいつも迷います。そして、決断を下した後に「別の道がよかったのでは」と後悔することも少なくありません。

 

合理的、科学的であることを尊重する人は、占いを迷信に過ぎないものだと馬鹿にします。

易にしても、筮竹を二つに割って片方の本数を数えて未来を予測したり、誕生日とか手のひらのしわで人生を読み解くなんて未開の地の原始人がやりそうなことです。

 

それでも、混とんとした人生には、偽物でも、とりあえずの地図がほしい。そんなことを思った冬至の夜でした。

そして、私も昨日得た卦を一年間の指針として過ごそうと思います。

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 羽田空港から見た富士山。

正夢リフォーム

我が家に滞在した元教え子のマギー。

陽気なイタリア人というステレオタイプとはちょっと違い、もの静かでまじめです。

 

今年から学生のホームステイは引き受けないことにしていたのですが、マギーから連絡があり、うちに来ることになりました。

当初の予定では滞在は3か月。それを全部というのは長すぎるし、実家の介護帰省や旅行もあるし、3週間ぐらいでということになりました。

マギーから最初のメールが届いたのは8月の終わりごろ。10月はまだ先のことのように思えて安請け合いしてしまいました。

私の悪い癖なんですが、未来の自分は今よりちゃんとしているし、家も片付いているだろうと楽観的に考える傾向があります。

 

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部屋は片付かず、マギーの来日の10月は近づいてくるし、だんだん気が重くなってしまいました。泊めてあげるといっても、せいぜい数日にすればよかったと後悔の念も。

 

マギーのほうからは「一泊いくらですか」と聞いてきたのですが、お金をもらうほどのことでもないし、「うちはカウチサーフィンもしているしお金は要らない」と返信しました。

そのあたり、どうするのがベストなのか、まだ結論が出ていません。

 

bob0524.hatenablog.com

 

我が家に到着したマギーは、「光熱費や水道代がかかるし、無料というわけにはいかない。お金を払う」と言います。うーん、実費として数百円ずつもらってもしかたないし、そこは無料で押し通しました。

 

そこでマギーは外で食事をしたら、私の分も支払おうとします。断るとかえって彼女も気を使うだろうと思って、ラーメンとかてんやの天丼といった1000円以下の食事はごちそうになることにしました。

 

「週の大半は仕事が忙しいから、案内もできないし、食事も一緒にできない。近所のレストランやコンビニで適当に済ませてほしい、家では寝るだけ」と言っておいたのですが、マギーは夕方になると「どうですか、今日の夕食、一緒にどうですか」「先生の夕食も私が買ってきましょうか」と聞いてきます。それは辞退しました。日本語学校の授業準備が忙しいし、夜にスポーツクラブに行くことも多かったので。

 

マギーは近所にエアビーアンドビーを見つけて、我が家に1週間滞在後、移動しました。朝食付きで一泊30ユーロ、日本円で4500円です。やはりお金を取ったほうがお互い気兼ねなく過ごせるのかもしれません。

  

食事を用意しないといってもちょっと気が重く、マギーが到着する日の前日、こんな夢を見ました。

 

知り合いの外国人を泊めることになって準備していたら、子供を4人も連れて来た。とても無理だからホテルを探したほうがいいと話し合っていると、知り合いの知り合いも続々到着。その国の大統領までやって来て、もうどうでもよくなって、夜通しどんちゃん騒ぎ。

朝になると、家は土台だけ残して崩れ去ってしまいます。すると大統領が「もっと立派な家を建てましょう」と宣言。

 

気が重くても、マギーをホストすればそこからまた人生が発展していく、そうなってほしいという願望をストレートに投影した夢です。

 

夢がリアルだったので、背中を押されて家のリフォームをすることにしました。築20年のマンションでクロスやフローリングはそろそろ取り換え時。不用品を処分し、ちまちました仕切りを取り払っい、すっきりしたいとずっと思っていたのです。

マギーが来なかったら「そのうちリフォームしたい」とずるずる先延ばししていたところでした。

 

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  熊本・黒川温泉の「のし湯」は細部まで行き届いた居心地のいい宿でした。このレベルまで自宅を整えるのは無理でしょうが、目標にしたいものです。

 

 

 

 

 

 

みんな何かにだまされて生きている

 たまたま見たテレビで「国際ロマンス詐欺」というのをやっていました。

 

ネットで知り合った外国人男性とメッセージのやりとりをして疑似恋愛関係に。

軍人や医師、エンジニアになりすました男性から「軍の任務で特殊な環境にあり、銀行送金ができない。娘の留学費用の振り込み期限が…」とか懇願される振り込め詐欺です。

 

被害者の中心は50代女性。「私は絶対にだまされない」という人ほどだまされるそうですが、私はすぐにひっかりそうな気がします。

 

何しろ、外国人好き。外国人と交流するためにカウチサーフィンを始め、日本語教師へとつながりました。

いかにも先生でございますみたいな顔をして教壇に立っているものの、実態は、外国人バーで飲んだくれる日本人女性とそう変わりません。

 

プレッシャーばかり大きくて何度も日本語教師をやめたいと思ったものですが、やめて暇を持て余せば国際ロマンス詐欺にひっかかるのが関の山でしょう。

 

だまされて高額のお金を取られるのは愚かなことですが、もしそれがお小遣い程度の金額だったらどうでしょう。

ひと時、わくわくさせてもらった対価としては悪くないのでは。

 

加齢とともに楽しみは減っていきます。

衰えを感じる以外は単調な毎日に彩りを添えるためには、軽くだまされるのもいいかもしれません。

 

「これを使えば美しくなる、健康になる」「ここへ行けば絶対に楽しい」、そんな謳い文句に釣られて動き、期待外れだったとしても、暇つぶしにはなったし、結果がわかるまではわくわくしていた。それでいいじゃないかと考えられるようなお気楽な老婆になりたいものです。

 

小さな楽しみを生活に散りばめておけば、国際ロマンス詐欺の疑似恋人のために巨額のお金を貢ぐこともないでしょう。

 

 

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 成田空港の国際線ターミナルにある、いかにも外国人が喜びそうな日本趣味のお土産店。

日本好きの外国人は大きな期待を抱いて来日しますが、実際にはどこに行っても人が多すぎてうんざりするかもしれません。

でも、あこがれの国に行くという出発前の高揚感があっただけでも旅に出る意義があると思います。